最高裁判所大法廷 昭和23年(オ)103号 決定 1949年6月29日
主文
本件上告を棄却する。
訴訟費用は上告人の負檐とする。
理由
上告理由第一点について、
所論の原審被告代理人弁護士古井喜実が昭和二二年一月四日勅令第一号公職に関する就業禁止退官退職等に関する勅令(その後の改正を含み以下これを追放令という)によつて、覚書に該当する者としての指定を受けた者とみなされた者(覚書に該当する者としての指定を受けた者を含み以下覚書該当者という)であることは当事者間に争のないところである。そして追放令は所論のポツダム宣言の条項を実行するために連合国司令官から日本政府に対して昭和二一年一月四日発せられた覚書(公務従事に適せざる者の公務よりの除去に関する件)に基き制定せられたものであることは同令第一条に照して明らかである。ところで覚書該当者が在職し又は就職することのできない公職は追放令第二条第一項の規定において定められているにもかかわらず弁護士の職はそのいづれにも該当しない。又その他の法令においても覚書該当者は弁護士の職から去らしめられ又は弁護士の職に就いてはならない旨を定めている規定はない。しかるに所論は覚書該当者が弁護士として委任を受けて公職者の訴訟代理人となり訴訟行為をすることは追放令第一二条と第一三条と第一五条第五項との各規定に違背しその訴訟行為は無効であると主張するのであるが、覚書該当者が弁護士として公職に在る者から委任を受けて訴訟代理人となり訴訟行為をすることは必然的にその公職に在る委任者に対しその公職の執行又は政治上の活動に関する指示若しくは勧奨をしその他右公職に在る者と意思を通じ又はこれに利益を供与して右公職に在る者をして自己に代つてその支配の継続を実現するような行為をさせるに至るものと断ずることはできない。又訴訟の代理人は必ずしも常に追放令第一三条第一五条第五項所定の場所に出入しなければ訴訟代理人としての職責を果すことができない筋合のものではない。されば本件において覚書該当者が単に弁護士としての市会議員の選挙無効の訴訟の被告である府県選挙管理委員長の代理人となつて訴訟行為をすることは追放令第一二条第一三条及び第一五条第五項の何れの規定にも違反するものではないから、覚書該当者で弁護士である古井喜実が崎玉県選挙管理委員会の代表者たる委員長の訴訟代理人となり原審においてした訴訟行為を無効であるとする所論は失当である。(その他の判決理由は省略する。)
よつて民訴第四〇一条第九五条及第八九条を適用して主文のごとく判決する。
この判決は全裁判官一致の意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介)